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加治さんの生活保護申請

生活保護申請

加治さんは生まれつきの重度の障害者。年金以外に生活の糧が無く、独り暮らしなら生活保護に頼らざるを得ないのがこの国の現状。

 加治さんの生活は独り暮らしだが、昼間は重度訪問介護のヘルパーが毎日入っている。でも一日あたり10時間なので、残りの時間はボランティアと高齢の義母が番に来ている。

 生活保護の申請を2011年8月12日に松前町福祉課におこなった。中予地方局長宛の生活保護申請書を提出したのだ。だが、無視されていた。

 そこで松前町福祉課の十時係長に聞くと、地方局には提出したが、最低生活費よりも年金が上回るだろうからと宙に浮いたままになっているとのこと。受理して、却下するか認容するかを調査せよと言った。

 そうすると、一度は自宅にやってきたが本人と話さず、義母と話し、義母の住所地の松山市の家に引き取ったらどうかとか、実家を売って費用を当てたらとか、いい加減な話ばかりで腹が立ったそうだ。

 次に来たときには、家に上がってきてもらって本人が話をしたいというのに、義母が居ないならと言って、帰ってしまった。その態度に仏様のように優しいといわれる流石の介護者も怒ったそうだ。

 その後の電話でも、義母宅に引き取れという説得など到底聞けない話ばかりであった。

 厚生労働省社会援護局保護課保護係にこの件について聞くと、県庁に生活保護の担当があるのでそこで相談すべきと言われた。

 10/28に、県庁の生活保護係に連絡して、どうなっているのか調査をお願いした。これからの経過は順に記載していく。

 10/31に保健福祉部保健福祉課生活保護係の友澤さんから電話があった。

 なんと、生活保護申請書は受理されていない、申請書に不備があったのでこのままだったら却下となるので、生活保護が受けられるように指導中で、最後は10月26日に電話で説明したというのだ。もちろんその電話も本人に当てたものでなく義母と話して、義母の住所地の松山市の家に引き取ったらどうかと言っただけのことだったのだ。

 それは法律的におかしいのじゃないかと言うと、友澤さんは受理する前に申請書の不備を訂正するのは妥当だという。じゃあ、どこをどう訂正するのかと尋ねると、中予地方局が本人に話しているからそれを聞いてくれと言う。中予地方局が権限を持っているので、愛媛県は指導することもできないそうです。

 申請書を出してから2ヶ月以上して受理されていないなんて、そのとき初めて知った。加治さんにも知らせるとビックリしていた。このまま放置されるのはたまらないので、対抗する方法を教えてくれるように頼んだ。本人が地方局に連絡して、結果がどう出ようと受理してくれと言えばどうでしょうかと言われた。

 このままではどうしようもないので、調べてみた。行政手続法という法律がある。それによると、

第七条  行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者(以下「申請者」という。)に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。
 

 申請が到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならずと書かれているのではないか。また法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者(以下「申請者」という。)に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求めとあるが、加治さんは申請の補正を求められたこともないし、そもそも生活保護の場合、申請の意思を示すことが申請の用件であることから、本人確認以外何ら補正すべきことは無い。

 次にもう少し調べたら、行政訴訟を起こせることもわかった。この場合は、中予地方局が受理しなかったことの違法性の確認。

 それで、以下のように友澤さんに確認のメールを送った。

盛次です。
昨日は、加治さんの件で電話をありがとうございました。
事情がわかりました。
本人に話すと、生活保護申請が受理されていなかったこと、
相談だけの状態であることに驚かれて憤慨されていました。
昨日、10/31に友澤さんの電話ではじめてその事実を知ったわけです。
つきましては以下の点について、再度お教え下さい。

1.友澤さんはいつ、中予地方局の誰に、電話し、
生活保護申請が受理されていなかったことを知ったのか?

2.申請書に不備があったとのことだが、
どこが不備でどう修正しようとしているかなどの具体的なことは聞いたのか?
内容については問いません、
具体的な不備とその修正行為を把握したのかどうかです。

3.昨日の電話で、中予地方局が加治さんからの
生活保護申請が出ているにもかかわらず、
書類不備があるとのことで受理せず、指導中とのことであったが、
そのようなやり方を友澤さんは正当としていたが、
愛媛県として認めているのかどうかについて
再度お聞きしたい。

4.行政手続法には
第七条  行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者(以下「申請者」という。)に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。
とあるが、生活保護審査の審査期間は14日。延長しても1ヶ月となっている。その倍以上の期間をかけて、申請の補正を求めているのは異常と言える。
その点についてはどう考えるのか?

5.行政訴訟を起こすときの、被告は中予地方局長なのか愛媛県知事なのか?

メールを送った後で調べてみると、

全国生活保護裁判連絡会の生活保護争訟の仕方

 どうやら、訴訟の前に、県知事に対して審査請求を起こす必要があるようだ。法律上は、申請して30日以内に生活保護の決定がない場合は、却下されたものとみなされるそうだ。勉強になった。
 同じ保健福祉部保健福祉課生活保護係の岡本さんが審査請求の用紙をFAXで送ってきてくれた。弁護士でなくとも代理で請求できるのだ。そして、口頭で意見を述べる機会を与えなければならないことになっていますので本人が県庁で意見を述べることができるのだ。申請をした本人から一言も話を聞かなかった中予地方局とは違うのだ。

11月7日ごろ、同じ生活保護係の佐伯さんから電話があった。

生活保護関連行政の職員で初めて丁寧な応対で、むしろびっくりした。
中予地方局による手続きの放置は「みなし却下」となることや、それに対しての審査請求について、あるいは中予地方局の不作為(申請を受理しなかったこと)の不法性を問う方法など、厚労省と相談しながら、丁寧に教えてくださった。

それで、加治さん本人と相談して、審査請求をあげることになり、書類作成に入った。愛媛県では初めてのことであり、マスコミに伝達するかどうかについても検討した。

11/18日、午後1時に自宅を出発し、県庁に向かうことになった。行き先は、保健福祉部保健福祉課生活保護係。

さて、聞くところによると、中予地方局は、書類不備で逃げようとしているそうだ。つまり、行政手続法第7条の申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者(以下「申請者」という。)に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め・・・
で加治さんはお母さんと二人で住んでいるので、二人として申請せよというのだ。しかし、お母さんが居るのは、加治さんのいざというときの番をするためで、基本的な生活の場は松山市だ。十分な重度訪問介護が認められれば、お母さんは松山市に帰るのだ。だがどちらにしても、申請の補正を求められたこともない。中予地方局は、お母さんも一緒に生活保護を申請したらどうかと勧め、一方で、松山の家を処分すれば生活費になるだろうと強要した。だから、81歳になるお母さん(離婚して松山市にある実家を継いでいる)も大いに怒っている。

ところが、出発直前に地方局から通知書が届いた。保護申請却下だ。

却下の理由は「単身での保護申請であったが、生活実態に符合しておらず、生活保護法第10条に反するため。」

確かに生活保護は世帯単位が原則だが、単身で申請したら、他の家族がいるからだめというのは法解釈の誤りじゃないかなと思う。それにお母さん(離婚して、加治さんの弟と実家の姓を継いでいる。亡くなった加治さんのお父さんが病弱だったので加治さんの介護とパン工房(加治さん宅は借家で工房と兼用)で仕事するために加治さん宅に来ているに過ぎない。介護が保障されたら松山市に帰る予定。生活保護上は、世帯分離してもよいと判断されるケース。百歩譲って同じ世帯としても、お母さんには年金も無く、加治さんの障害基礎年金と特別障害者手当てでは二人の最低生活費を上回るはずも無い。中予地方局が言うように、松山市の家を売れ、あるいは松山市に引っ越したらいい、そうでないと認められませんと言っていたが、それを体現したかのような却下だった。

いずれにせよ、愛媛県による審査が始まる。さあどうなることやら。

生活保護申請が却下されたときの手続きについて説明する。加治さんの場合は、福祉事務所を持っていない松前町なので、愛媛県の出先機関である中予地方局が生活保護申請を受け、調査し、決定するか却下するかを決めることになる。却下されると、その上位官庁である愛媛県に対して審査を請求し審査決定が出る。それでも却下されると、今度は厚生労働省に対して再審査を求めることになる。

愛媛県での審査が始まり、地方局から弁明書が出された。

それによると、書いてある、書いてある。申請を放置していた理由。松前町と地方局との行き違いからそのままになっていたこと、申請を取り下げるように説得していたので日時が過ぎていったことなど。最終的には、お母さんといっしょだからだめだというものだ。お母さんと一緒でも経済的には生活保護の対象となると考えられるが、単身で申請しているからだめというものだ。お母さんは、介護不足の中で緊急避難的に夜間の見守りにきているに過ぎないし、生活保護が取れ、介護時間が保障されれば、お母さんは自宅に戻る。

そういうところで反論書を出した。弁護士の支援もあり、物件要求書補充書も提出した。

加治さん本人にも陳述の機会が与えられた。身体状況から、自宅での陳述となった。愛媛県始まって以来のことだ。

加治さんは生活保護の必要性を陳述した。

しかし、審査請求も棄却された。

その理由を見ると、まったく納得できない。

ほぼ、中予地方局の言い分どおりで、生活保護法10条違反だから、生活保護を却下して妥当というものだった。

確かに生活保護は世帯単位だ。加治さんが単身で生活保護を申請しても、同じ世帯に属する人がいる場合、それらの所得も調査し、最低生活費との比較で生活保護を決定するか、却下するかを決める。その世帯認定については厚労省が生活保護基準を取り決めており、その中に同じ住所でも世帯を分離する場合や、違う住所でも世帯を一つと見る場合などが定められている。同じ世帯になるのか、分離すべきなのかどうかは処分庁が調査して行うことになっている。中予地方局が実施した調査は、松前町役場からの聴取と、民生委員からの聴取でお母さんがいっしょにいる、同じ世帯員だと判断しただけに過ぎない。重度障害者を介助するためにいっしょに生活している場合には、世帯分離可能なことがあるがそれについての調査や判断をしていない。その点で違法であると言えよう。

審査棄却決定は見れば見るほど酷いが、これをこのまま厚労省に再審査として持って行ってもいいものか気が引けた。愛媛県の恥をさらしてしまうようで心許無かったのだ。でも、そんな愛媛県をどうにかして欲しいという県庁内の意見が聞こえてきて、敢えて晒すことになった。真剣に県民のことを考えておられる県職員の方には申し訳ない。愛媛県に巣くう隠然たる力が弱まればそれでいいと思う。

また、大きな問題点がある。重度の障害者の自立という問題。

就労できないことが通常であり、養護学校(高等部)での進路指導でもどこの施設に行くかを問われることが多い。就労や進学はまれ。あるいは在宅で親が介助しての生活となる。その生活からの自立がほとんどとなる。

施設からの自立であれば、アパートを見つけて重度訪問介護を認めてもらい、生活保護を取る、在宅なら重度訪問介護と単身での生活保護でということになる。年金が高額なら生活保護は不要だが、そうも行かない。蓄えの無い重度障害者は生活保護でしか生活できない現実がある。

松山市なら重度訪問介護は一日16時間、生活保護の他人介護量を申請すれば重度の方なら4時間、合計20時間の介護時間が確保され、何とか生活が出来る。しかし、それ以外の市町村では10時間がやっと。親がいると80歳でも90歳でも介護者とみなされ、重度訪問介護はへらされ、生活保護も難しい。今夜死んでしまうかもしれないという覚悟で親が夜間はなれることが出来れば別だが、人道的にそれはありえない。

再審査の準備を始め、厚労省に再審査請求を送付した。

再び、処分庁(中予地方局)からの弁明書と、審査請求のときになされた求釈明への返答、加治さん側の反論書で再審査決定がなされることになる。提出されれば順次掲載する予定だ。

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