再 審 査 請 求 書
2012年1月31日
厚 生 労 働 大 臣 殿
再審査請求人 愛媛県伊予郡松前町
加 治 政 広
再審査請求人代理人
〒790-0001 松山市一番町1丁目14番地10井手ビル5階
松山あゆみ法律事務所
(送達先) 弁護士 江 野 尻 正 明
(TEL089-993-8593 FAX089-993-854)
〒790-3120 愛媛県伊予郡松前町
盛 次 義 隆
再審査請求人
氏 名 加 治 政 広
年 齢 55歳
住 所 愛媛県伊予郡松前町
再審査請求にかかる処分
1.原処分者
名 称 愛媛県中予地方局長
2.審査請求審査庁
名 称 愛媛県知事中村時広
再審査請求にかかる処分があったことを知った年月日
日 付 2012年1月6日(裁決書の謄本が送付された年月日)
再審査請求の趣旨
第1
再請求人は、2011年8月19日、愛媛県中予地方局長あてに、生活保護申請(以下「本件保護申請」という)を行ったところ、愛媛県中予地方局長は、同年11月17日段階で、本件保護申請に対する決定をなさなかった。そこで、再審査請求人は、同日付で、愛媛県知事に対し、生活保護法24条4項にもとづく見なし却下決定(以下「本件見なし却下決定」という)について、審査請求(以下「本件審査請求」という)を行なった。これに対し、愛媛県知事は2012年1月5日付で、本件審査請求を棄却したので、本件見なし却下決定を取り消されたく、再審査請求を行う。
第2 再審査請求人が、本件保護申請を行ったところ、愛媛県中予地方局長は、同年11月17日、再審査請求人に対し、同人が本件審査請求を行う当日に、同日付保護申請却下通知書を送達した(以下この却下処分を「本件却下決定」という)。愛媛県知事は、2012年1月5日付で、本件見なし却下決定に対する本件審査請求を本件却下決定に対する審査請求として取り扱った上で、本件審査請求を棄却したので、本件却下決定を取り消されたく、再審査請求を行う。
第3 再審査請求人は、2011年11月17日付で、本件審査請求を行ったところ、愛媛県知事は、本件審査請求手続において、再審査請求人が求めた本件見なし処分却下決定に対する審査をせず、本件却下決定に対する審査をし、これを棄却したので、愛媛県知事がなした2012年1月5日付裁決(以下「本件裁決」という)を取り消されたく、再審査請求を行う。
再審査請求の理由
第1 生活保護申請却下決定の違法性
1.本件保護申請について
再審査請求人は、本件保護申請を行った住所地で育ち、地域で社会生活を営んできたところ、その障害が進行し、また、2011年7月に同居していた父を亡くしたことから、単身での生活が立ちゆかなくなり、再審査請求人の住所地で生活を続けるために、本件保護申請を行ったものである(本件審査請求における口頭意見陳述録取書参照)。再審査請求人が、障害を有していても、地域で、当たり前の生活をしていくことは、憲法13条、22条1項で保障された権利であり、これを障害の故に認められないとするならば、その取り扱いは憲法14条に反するものであることは論を待たない。
2.本件保護申請への対応の違法
本件保護申請を認めないことについては、実体法上(内容)の違法・不当性と、手続上の違法不当性がある。以下、順にその概要を述べる。
(1)内容
審査請求手続に於ける処分庁の2011年11月30日付弁明書(以下「弁明書」という)によれば、再審査請求人の単身世帯の保護基準額を月額金100,680円としているようである。これは、再審査請求人(55歳)の住所地が3級地の2であること及び同人が重度障害者であることを考慮すれば、次の計算によるものと推定される。
居宅保護第1類 金31,310円
同第2類 金35,610円
障害者加算 金23,100円
重度障害者加算 金14,330円
以上小計 金105,250円
しかしながら、仮にこの計算によるのであれば、少なくとも次の2つの項目が算入されていない。
住宅扶助 金9,000円
紙おむつ等 金21,000円
以上小計 金30,000円
この2つの項目は、生活保護の要否判定をするにあたって簡単に判断できる事項である。まず、住宅扶助については、再審査請求人は、本件保護申請に際し、提出した資産申告書に建物(再審査請求人の住居)を所有していることを記入する一方で、土地については宅地の欄の「無」に印を付けているのであるから、審査請求人の住所地の底地について、使用貸借か賃貸借かを尋ねれば、容易に地代月額金9,000円が判明したはずである。次に、処分庁は、再審査請求人が重度の身体障害を有し、紙おむつを使用していることについても、特段の手段を必要とせず把握できることである。
しかるに、これらの費目を、弁明書提出段階においても把握せず、「保護の必要性が認められない」旨の主張を維持しているのは、生活保護法(以下「法」という)9条に反する違法な判断である。
更に、再審査請求人は、松山市在住の母親の介護を受けているのであるから、再審査請求人が求めている単身世帯での他人介護料であれば69,680円が加算されるはずである。また、再審査請求人の疾病の状況によっては、在宅患者加算11,300円も考慮されて然るべきであろう。
仮に、他人介護料や在宅患者加算が認められないとしても、上述の住宅扶助及び紙おむつ等(臨時的一般生活費のうちの被服費)を考慮すれば、再審査請求人が本件保護申請時に認定されるべきであった最低生活費は月額金135,250円となり、同人が本件保護申請時に収入申告した月額金128,615円は、これを下回ることが明らかであるから、本件却下決定は違法である。
(2)手続
ア 法定期限徒過
本件保護申請については、これに対する応答がなされたか(その場合は却下決定がこれにあたる)、あるいはなされていないか(その場合は見なし却下決定となる)について別途の論点があるものの、いずれにせよ、本件保護申請が2011年8月19日になされたのに対し、処分庁は、法24条3項の規定では同年9月1日までに、百歩譲って同項但書によっても、同月17日までに、保護の要否、種類、程度、方法を決定し、再審査請求人に書面で通知する義務を負っている(同条1項、3項)にもかかわらず、同年11月17日までこれを怠っていた。
そもそも、法が、生活保護の申請に対し、24条3項で処分庁の決定の期限を定めたのは生活保護が、一般の行政手続に比して、生存権(憲法25条)保障のために最低限度の不可欠なものであることから、迅速な応対を義務付けたものである。これを徒過することの違法性を阻却する事由は、法のどこにも存在しない。
したがって、処分庁の弁明の内容を問うまでもなく、本件見なし却下決定あるいは本件却下決定はこの一点のみで、法の精神を没却しており、違法の評価を免れないものである。
イ 取下げを求めることの違法
処分庁は、弁明書において松前町との協議の結果、松前町が取下げを指導することとし、松前町において取下げ指導がなされていたと信じており、2011年9月30日に、本件保護事件が取り下げられていないことを知ったとして、これが期限徒過の理由となるかのような説明をしている。
そもそも、行政手続、就中生活保護申請への応答として、申請への取下げを求める権限は処分庁にも松前町にもないものであり、再審査請求人に対して、本件保護申請の取下げを指導したこと自体が違法なものである。
ウ 放置の違法
法19条7項2号及び24条6項で、松前町長は、本件保護申請を本件保護申請を受理してから5日以内に、要保護者に対する扶養義務者の有無、資産状況その他保護に関する決定をするに際して参考となるべき事項を記載した書面を添えて、処分庁に送る義務を有している。
この点、弁明書の記載によると、松前町は、2011年8月23日(本件申請の日を入れて5日後)に、地域福祉課(この機関が処分庁とどういう関係にあるのかの説明無し)と「協議」している。しかしながら、法が松前町に要求しているのは、協議ではなく、法24条6項記載の書面を添えて、本件保護申請書を処分庁に送付することである。そして、処分庁はこれを受理して、保護の要否等を判定するほか法律上の権限はない。
したって、処分庁がいうように、この「協議」の後、松前町から処分庁への連絡が無かった故に、本件保護申請が取り下げられたと信じ、放置することは法24条3項の法定期間遵守義務を免除する事由とはなり得ない。
付言するならば、処分庁は、弁明書において、再審査請求人とその母親との2人世帯であれば、保護が認められる可能性があると自認している。そうすると、処分庁の立場に立ったとしても、要保護状態の審査請求人とその母親との2人世帯からの保護申請が提出されないことについて、処分庁は全く考慮しなかったこととなる。これは、法19条6項、9条または25条に照らし、違法・不当な不作為である。
エ 調査内容の違法
処分庁は、弁明書に2011年11月14日付民生委員意見聴取書を添付している。その内容に、「周辺住民の評判」を尋ねるものがある。これは、本件生活保護申請についての要否判定をするにあたって、どのような必要があるものであるか全く不明であるし、そのような意見聴取をする法的根拠がなく、処分庁が、再審査請求人の自己決定権及び情報コントロール権等(憲法13条等)を違法に侵害する行為である。
また、処分庁は、弁明書に同年9月28日付松前町長の調査報告書を添付している。その内容の違法性については、既に審査請求に於ける反論書で述べたとおりである。
なお、いずれの資料も、法24条3項但書の期限さえ徒過した後に作成されたものであり、二重に違法であるとの評価を免れない。
第2 期限徒過の違法
1.法定期限の意義
憲法31条以下が手続保障を定めている。これらの規定は直接には刑事手続に対するものであることは文言上明かであって行政手続一般に及ぶか否かは議論が分かれるものの、憲法13条あるいは手続的法治国家の原理等、手続保障が、憲法上、人権保障のために不可欠な原理であることについて異論はない。
ことに、生活保護は、上述のように生存権に直結するものであるから、法24条3項の期限の厳守は、例外の認められないものである。
2.本件却下決定がなされた時期について
ところで、本件却下決定は、上述のように2011年11月17日付でなされており、同日、再審査請求人に送達された。これは、再審査請求人が、同日、本件審査請求をする旨をマスメディアに告知していたことから、処分庁が、これを認識し、見なし却下処分による本件審査請求を回避するため、同日に間に合うように本件却下決定をし、再審査請求人に送達したものと解さざるを得ない。再審査請求人は、本件審査請求を行うために自宅を出る10分程前に、本件却下決定通知書を受領した。この点は、口頭意見陳述ないし別途の疎明資料にて明らかにする予定である。
このような時期に出された本件却下決定は、見なし却下処分に対する本件審査請求を回避するための潜脱的手法であり、そもそもその効力を有しないと解するべきである。
仮に、本件却下決定が有効なものであるとしても、これが出されたのは本件保護申請から91日目である。これは、法24条3項所定の期限内に処分が行われており、それが却下処分であった場合に、早ければ審査請求の裁決が出ていてもおかしくない時期である。本件保護申請に対するとされる本件却下決定の期限徒過が他に例を見ない異常なものであり、違法であることは明かである。
第3 裁決手続の違法
1.裁決での判断の対象
本件審査請求に対する裁決(以下「本件裁決」という)は、再審査請求人が求めた本件見なし却下決定に対するものではなく、本件却下決定に対するものである。
これは、再審査請求人が求めた処分に対する裁決を怠った点で、違法である。
仮に、審査請求人が求めた処分に対するものではなく他の処分に対する裁決を行うことが出来る法的根拠があれば、審査庁たる愛媛県知事はその根拠を明らかにされたい。
この点、仮に、本件却下決定が有効であり、見なし却下処分が存しないとの解釈が成り立つとしても、その場合、審査庁は、再審査請求人に対して、行政不服審査法21条による補正を求めるべきである。
したがって、本件裁決はそれ自体違法であり、取り消されるべきものである。
2.また、本件裁決は、再審査請求人の期限徒過の指摘に対して、やむをえない事情があったとい理由でその違法性がなくなるかのような判断をしている。しかしながらやむをえない事情があれば法定期限(特に、法24条3項但書の期限)を徒過することを認める規定は全く存しない。やむをえない事情を考慮するという判断枠組みは、上述の手続保障、法定期限の意義を全く理解していないもので、法治国家に於ける行政手続の一環としての審査請求手続自体に違法があったといわざるを得ない。
第5 審理について
再審査請求人は、本件再審査請求手続について、以下の各点を踏まえた審理を求める。
1.求釈明&理由の追加・補充
再審査請求人は、審査請求手続に於ける2011年12月26日付反論書補充書において、多くの求釈明をし、物件提出要求を行った。しかしながら、同日は、既に、審査請求に対する裁決の期限が迫っていることから、法定の期限どおりの裁決を求め、本件裁決でもその旨に触れられている。
そこで、再審査請求人は、処分庁に対し、本件再審査請求手続に提出する弁明書において、本再審査請求書記載事項への弁明のみならず、本件審査請求においてなした上記反論書補充書記載の求釈明に応じること及び弁明書を速やかに提出して、再審査請求人が釈明事項を十分に検討した上で、再審請求書補充書、反論書等で十分にその意見を述べる手続保障がなされることを求める。
再審査庁も、本件再審査請求手続において上述の趣旨に沿った手続運用をなされるよう求める。
2.口頭意見陳述の機会付与の申立
再審査請求人は、本件再審査請求手続においても、口頭意見陳述の機会の付与を求める。
3.その他
再審査請求人は、本件審査請求手続で提出された物件及び提出されなかった物件について、十分に精査し、これについての意見も述べる予定である。
処分庁の教示の有無及びその内容
教示あり。
その内容。
1 この裁決に不服があるときは、この裁決があったことを知った日の翌日から起算して30日以内に、厚生労働大臣に対し再審査請求をすることができます。
2 この裁決の取消しの訴えは、この裁決があったことを知った日の翌日から起算して6箇月以内に愛媛県を被告として(愛媛県知事が被告の代表者となります。)提起することができます。ただし、1の再審査請求をした場合は、当該再審査請求に対する裁決の送達を受けた日の翌日から起算して6箇月以内にこの裁決の取消しの訴えを提起することができます。
再審査請求の年月日
2012年1月31日
添付資料
1.委任状 2通
以上
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